「あいさつができる」というのは、社会の中で大事なルールである。 確かに、元気なあいさつは周りの人にとっても気持ちの良いことである。 小学生の頃から私たちは「元気にあいさつをしましょう」と言われ続けてきた。 しかし、あいさつをしなくてはと思っているのに、実はそれがとても難しい人もいるのだ。 それを先日、利用者のBさんから教えられた。 Bさんは、具体的にこうするという手順や見通しがあると、 真面目にコツコツと仕事が継続でき、 その仕事ぶりにはスタッフ間でも「すごいね」「Bさんにこの仕事をしてもらおう」と 信頼されている存在である。 半面、自分を表現することやコミュニケーションをとることが苦手で、 朝来た時や、仕事が終わって帰る時のあいさつが難しい。 Bさんのスケジュールに、来た時「おはようございます」と言う。 帰る時「おつかれさまでした」と言う…など文字での表示だけでは難しかった。 ある日、Bさんにあいさつについて聞いてみた。 どのタイミングで、誰に、どうあいさつするか 「わかりにくい」 「大きい声を出すのが苦手」を選んで丸を付けていた。 発達障がいの人の中には、 例えば部屋に入った時にその部屋に誰がいて何をしていて、 どういう状況なのかを瞬時に読み取ることが苦手な人もいる。 また人の顔を覚えることが苦手な人もいる。 Bさんの気持ちが分かったので、スケジュールにスタッフの顔写真を貼り、 どのスタッフに、どうあいさつするかを付け加えてみた。 そして「練習しようか」と誘いその日の帰りに練習してみた。 その日から、Bさんはスケジュールを見て、その日のスタッフのところに行き、 「おはようございます」や「おさきにしつれいします」とあいさつをしている。 スタッフが変わっても、ちゃんとあいさつをして帰っている。 とても小さなことかもしれないが、 「あいさつをしなくっちゃ」という思いはあるのに出来ずに、 できなかった自分を感じてモヤモヤが積み重なるよりも、 自信をもってあいさつができた自分を感じて一日の仕事が終えられる方が 「できた感」があるのでは…と Bさんの表情から考えさせられる。 たかがあいさつ、されどあいさつ。 枠にはめたコミュニケーションだと批判する意見もあるかもしれない。 でも、ここから一歩ずつ広げていくことがBさんにとっては大事なのではないかなあと考える。 また、Bさんにとっては良くても、同じように「あいさつが苦手」なDさんにとってはまたサポートの方法が違うところが、 支援の面白いところかなあと思う。 Bさん すごいね! お仕事も頑張っているよ! すごいことだよ NPO法人nui理事長 大岡和子